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2008年3月12日
東京・高円寺ペンギンハウス

【独パン・ライブvol.92】
〜女の独唱パンク・春の災典〜


福田理恵
(オープニング・ポエム&司会)




ろみ(from宮城仙台)



六九狂
ヴィヴィアン
“Vivienne★Kick”



杉田“ナターシャ”
奈央子




まちゅこけ
(from大阪西成)



田中眞紀子



        ライブレポート・恋川春町 版





福田理恵
彼女のポエトリー・リーディングは、映画の中に登場するポエトリー・リーディングだ。
それは『シルヴィア』でグウィネス・パルトロウ演じるシルヴィア・プラスであり、『ポエトリー・セックス』でニュージーランドの下町の片隅のBARで、自らの赤裸々な性を幻想的な詩の朗読として後に残し、謎の失踪を遂げた十代の危ない少女である。

女はなぜ詩を読むのか。それには男には理解できない、許容できない別の世界を彼女達が内に秘めているからでもあるだろう。

福田理恵によるポエトリー・リーディングは、男には手の届かない物であるからこそ、同時に男を魅了するものだろう。
彼女はその秘密の世界で、彼ら男達の思惑とは無関係に、女神の銅像として在り続けるだろうし、彼女と同じくその世界で遊ぶ多くの永遠の少女達に、含んだ笑みをもたらすのだ。

日常と空想の同居しているかのような、余所行きめいた衣装を着、しっとりと淡々と言葉を奏でる彼女は、あえて奇をてらう必要もないのだろう。
パフォーマンスとなれば、観客に向けて発信している何らかの「一言」がある場合が多い。しかし彼女の控えめな人となりや、詩に底流するムードからもわかるとおり、彼女の最大で最良の魅力は、その秘密性にあると思う。

彼女を観る私達は、その秘密に近づき、触れてみようとするだろう。それはまるで、あの失踪した少女の謎を解くための手掛かりのように私達の劣情を刺激する。





ろみ
奇妙奇天烈な宇宙船に乗って、素敵な女の子がやって来る。今日もたくさんの魔法をかかえて地球に降り立つ。
私達地球人はみんな彼女が大好き。彼女の振りまく魔法も大好き。でもその魔法は、私達が見たくない、目を背けたくなるような、みんなの本当の顔を暴き出してしまうというのに。

最初の魔法は何だったか?彼女はあえてナチュラルに客席から歌ったのだ。ろみの持つ不思議な声は、こうして人を癒やし尽くすこともできる。
そして...、始まったのが狂気の叫び。人間の限界のところでの鼻歌=独唱だった。女の独唱、それはそれは恐ろしい。

一曲目。あの心を抉るような旋律。主人公である少年は、純粋であるが故にこの世の中では腐っていくという運命にある。
「あなた方はどうしてこの世に生を受けたか知っているだろうか?」世界の政治や日本の現状について、これほどまでに痛快に笑い飛ばせる精神力を持った人を私は見たことがない。飛んでくるナイフは逸れることなく、真っ直ぐに観る者の胸を命中する。

MCを挟み、『壁』。壁の中に塗り込められた少女。そしてその秘密を歌うのは、またもや少年である。 彼女の歌の主人公の多くが少年であること。それは女性としての歌い手云々というところ以外では、特にこだわって考える必要もないのだろうが、しかしその「女性性」こそ今回の独唱パンクの狙い目であるだろうから。
その観点から見るに、とある異様なことに気が付く。彼女の主人公が少年であることから自然と生み出される「究極の女」というのがあるようだ。

実際、女というのは男を男よりも深く知っている。そして少年という生き物は、女に食い殺されるために存在するようなものだ。
だからろみは、歌いながら自身が少年となることで、同時に側面では「究極の女性」に近づいて行っているのだろうと思う。





六九狂ヴィヴィアン
ろみの宇宙船が過ぎ去った後に登場したのは、低音響くダンプカーをピンヒールで運転する女パンクロッカーだ。
そのふたりの対照的な世界観に、ここまで観客が素直に翻弄されてしまうのは、やはり女という生き物の恐ろしさを物語っている。
常に全力疾走で突っ走って来たのだろう彼女から繰り出されるリズムとビート。それは力強く明快で、一息も付かせない緊張感が漲っている。
ギターの低音と、艶やかな声。それらに煽られるままの私達は、彼女に付いていこうと賢明にその姿を追いかける。しかし彼女ならきっとそのうち、ふと気が向いたままに、またダンプカーのアクセルを踏んで、一言さよならと告げて私達を残して去って行くだろう。
あらかじめフラれているかのような恋心。音楽よ止まないでと、昔のロックスターに憧れた少女達のような気持ちを味わってしまうというこの妙な感じ。

彼女は近い将来には、バンドのセンタープレイヤーとなって、またさらにビッグになっていくのだろうか?きっとヴィヴィアンのことだから、何らかのビッグなサプライズを準備してくれていることだろう。
だからこそ、弾き語りだから観られるだろう至近距離の生な彼女を、もっと観ていたいと思う。





杉田ナターシャ奈央子
セクシーなダンプカーが過ぎ去った後には、ここでまた情景は一変、森の小径を裸足でさ迷う少女だ。
ステージの上で裸足の女性は多くみるが、その声と内面まで裸足のままの人というのはそういない。
彼女のこの持ち味、才能、というよりも、既にその業のようなものだろうが、それは如何に派手なステージをしても、また反対に落ち着いたステージをしても決して変わらないものなのだ。
そして演者としての彼女が持つ声の表情の豊富さは、歌の世界でも詩の世界でも同じように魅力的であるだろう。

時に、ライブハウスという異空間になりたがるこの世界では、強烈なこと、わかりやすいメッセージ、あるいはあまりにわかりづらいことなどが求められ、繰り返し生産され続ける。
しかし、このとき杉田奈央子が創造しえた空気感。それはどんなパンキッシュなメッセージよりもパンキッシュでありえ、そしてどんな荒々しさよりも荒々しく、神聖ですらあり、何より誰よりも観る人に優しかった。

ポエトリー・リーディングというひとつの表現手段が、この日新たに別の意味をもたらしてくれたように感じた。





まちゅこけ
シャンソンを口ずさむ小さな黒猫の登場。広場やカフェの暖かい空気が流れる。
健気なまでに、その細く小さな体に大きなアコースティック・ギターを抱える彼女は、太陽に向かって生きている悦びをハミングする。

外国のキャバレーで見る風景。シャンソン歌手とギター弾きとダンサーと、その全てを一手に引き受けて旅をしている、彼女は小さな一人劇団なのだろう。
幌付き馬車が青春十八切符なのか、ヒッチハイクの見知らぬ人の車なのか、それはわからないが、その車窓を眺める彼女の視界には、誰よりも青い空が賑やかにワイワイと、そこに広がっていることだろうと思う。

「夢に破れた戦士たちよ」そしてその旅で出逢ってきただろう人々への美しい真っ直ぐな思いが歌になる。

チャーミングであることとは、きっとその人自身がチャーミングなのと、もうひとつ、相手をもチャーミングにしてしまうことというのがあるようだ。
愛すべき人は、周りの人をも愛らしくしていくのだ。この風と愛の爽快な歌声が、これからも世界中を愛らしくして行きながら旅をしていくのだろうと思うと、なんだかほっとしてしまう。ゆっくりと深呼吸でもしたくなった。





田中眞紀子
「私の国の太陽は低くはしばみ色」。
若草色のドレス(本当は純白のドレス)を着て現れた歌姫は、上質な絵本や物語が時としてそうするように、一瞬にして私達を美しい世界へと連れて行ってくれる。その旋律と歌声だけで、私達はこの世界とそこに響いているだろう音楽を想像する。
本当は捕らえ所のないだろう世界、それをもしかしたら一つの物なのかもしれないと感じさせてくれるような時間。
大きな木の下で、美しい風が語りかけてくれるような時間だ。

「彼女の瞳はダイヤモンド」に続き、「未明」からの抜粋。
戦争を題材にする詩人(歌手もやはり詩人なのだ)は多くいるが、このように人間の視点から描ききった者はそう多くないように思える。それが単なるヒューマニズムではなく、どんなドキュメントよりも真実を語っているような力強い詩は少ない。
かつて英詩人ハーバート・リードが、死にゆくドイツ人将校と、捕虜となって右手を落とされた少女と、戦争の終わる朝に目覚めるイギリス軍人との内面を同時進行に描いたあの壮大な戦争詩が思い起こされる。
真実とはあらゆる存在があらゆる回路で組み合わさった総体だ。そしてこの歌の中に流れる時間こそが、本当の時間なのだろう。
選び取ることで強調されるプロパガンダとは対局にある、人間のための歌。第二次大戦下のフランス、パルチザンの詩人。

田中眞紀子inフランス
これは是非とも近いうちに実現してもらおう。(チバさんに(笑))






恋川春町・・・
詩人。ポエトリーパフォーマー。独パン・オムニバスVol.4に参加。      


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